【はじめに】
革には代表的な2つの鞣し方法が存在します。
植物由来のタンニンを用いる「タンニン鞣し」と、薬品を使用し効率的に生産できる「クロム鞣し」。
その2つの方法をかけ合わせたのが、「コンビ鞣し」という革です。
タンニン鞣し革の特徴とクロム鞣し革の特徴を合わせ持つ、ハイブリッド型の鞣し革となります。
両方の鞣しの特徴を兼ね備えた革。
ここで疑問が出てまいります。
その革のコバ処理は、一体どちらのコバ処理方法(手順)で行えばいいのだろうか?と。
そこで今回、同じコンビ鞣しの革を使用し確認してみることにいたしました。
一方を”タンニン鞣し革のコバ処理方法(手順)”で行い、もう一方を”クロム鞣し革のコバ処理方法(手順)にてコバ処理を行ってみました。
はたして、コンビ鞣し革と相性がいいコバ処理方法はどちらなのか!?
どちらの方法でコバ処理を行うべきなのか!?
なお、基本となるタンニン鞣し革のコバ処理方法(手順)とクロム鞣し革のコバ処理方法(手順)は下記をご参照ください。
【コンビ鞣し革のコバ処理方法(手順)】
工程1~工程4は、タンニン鞣し革もクロム鞣し革も共通の作業工程となります。
1.口金押さえペンチ式でコバの繊維をしめ、形を整える

コバ部分を口金おさえで挟み、革の繊維をしめ形を整えていきます。
使用するコンビ鞣し革は「色ゴート」という山羊革です。
2. サンドスティックや耐水ペーパー(紙ヤスリ)で、コバを整える

サンドスティックやミニルーターで、コバにはみ出したボンド/革の貼り合わせの段差などを整えます。
3.ヘリ落としで、ヘリ(カド)を落とす

ヤスリがけにより立ったヘリ(カド)をヘリ落としで落とし、丸く手触りよく整えます。
今回使用した「色ゴート」はコンビ鞣しの山羊革ですが、ヘリ落としの感覚はクロム鞣し革に近く硬め。
4.トコフィニッシュ/CMC等のコバ磨き剤で軽く磨く

トコフィニッシュ/CMC等で軽く磨きます。
軽く磨いた感じは、確かにタンニン鞣し革とクロム鞣し革の特徴を分け合ったような印象です。
つまり、純粋なタンニン鞣し革ほど磨くことは出来ないかもしれない。
かと言ってクロム鞣し革のように、ほとんど磨けないというほどでもない。
【タンニン鞣し革のコバ処理/クロム鞣し革のコバ処理で分ける】
ここからは、2つのベルトをタンニン鞣し/クロム鞣しの各コバ処理方法で分けてコバ処理をして、その仕上がりを比較してまいります。
これで、コンビ鞣し革をどちらのコバ処理方法でコバ処理するべきか答えが出るはずです。
2つ用意したコンビ鞣し革のベルトは、工程1~工程4まではタンニン鞣し革用もクロム鞣し革用も同じ作業工程で下処理してまいりました。
次の工程5から作業工程が分かれていきます。
コンビ鞣し革に適したコバ処理方法(手順)は、果たしてどちらなのだろうか!?
【コンビ鞣し革~タンニン鞣し革のコバ処理方法(手順)によるコバ処理】
5.軽く磨いたコバを、再びヤスリがけします

軽く磨いたコバを、もう一度ヤスリがけしてさらに整えていきます。
一度目のヤスリがけで取り除けていなかった小さなボンドや段差をなくすように。
しかしながら、必要以上に強くヤスリがけをすると再びコバを荒らしてしまうので力加減に気を付けましょう。
6.ヤスリがけ~トコフィニッシュ/CMC塗布~磨きを繰り返し、最後に光沢が出る直前まで磨き込む

ヤスリがけ~トコフィニッシュ/CMC塗布~磨きを繰り返すことで、徐々になめらかなコバに近づいてきます。
牛革と山羊革の違いもあるとは思いますが、オイルを多く含んだタンニン鞣し革よりも光沢感は控え目。
7.クラフト染料(染料系コバ着色剤)でコバを染色する

クラフト染料が吟面にはみ出さないように、慎重に塗布します。
白の革に、黒の染料を入れる際の緊張感たるや・・・。

上は、クロム鞣し革のコバ処理方法用の革です。
吟面下の白い層がしっかり着色されているのが確認できます。
純粋なクロム鞣し革のコバは、染料での染色は難しいです。
気になる方は、一度試してみることをおススメします。
失敗するのも良いデータ収集になるかと思われます。
8.染料が乾燥したのを確認したら、ウッドスリッカーで磨きこみます。

染料が乾燥したのを確認後、ウッドスリッカーで磨き込みます。
タンニン鞣し革のような光沢感は出づらいです。
9.レザーフィックス等のコバ仕上剤を塗布する

レザーフィックス等のコバ仕上剤を塗布し、色止めを行います。
染料が完全に乾いても、洋服に強く擦れたりした場合は色移りの危険があることを考えると、やはり色止めはしておいた方がいいと思います。
同時に、磨くだけよりコバの強度も上がります。
10.ウッドスリッカーで形を整えつつ検品

コバ仕上剤が乾燥したら、ウッドスリッカーで磨き込みながら検品。
塗り残し部分が無いかを確認しつつ、コバの形も整えておきます。
タンニン鞣し革のコバ処理方法(手順)での、コンビ鞣し革のコバ処理は完了いたしました。
【コンビ鞣し革~クロム鞣し革のコバ処理方法(手順)によるコバ処理】
5.コバコート(顔料系コバ着色剤)を塗布する

顔料系のコバ着色剤は、コバに溶剤をのっけるイメージ。
今回、水で少し薄めたのですが、もしかしたら薄め過ぎたかもしれません。
6.コバコート(顔料系コバ着色剤)が乾いたら、ヤスリがけを行う

コバコートを1回塗布し、乾燥後にヤスリがけをしたところ。
まだ1回塗布だと塗膜に厚みがないため、ヤスリがけにより革が見えてしまうこともあります。
7.再びコバコートを塗布

まだまだ塗膜が薄いので、コバ着色剤塗布~乾燥~ヤスリがけと作業を繰り返します。
8.ヤスリがけでコバを整える

塗布~乾燥~ヤスリがけを繰り返すことで少しずつ塗膜が厚くなり、次第に凹凸のない綺麗なコバに仕上がってまいります。
どの程度、塗布~乾燥~ヤスリがけを繰り返すのかの判断が鍵となります。
画像は3回、塗布~乾燥~ヤスリがけを繰り返しました。
今回、コバコートを薄め過ぎたので、少し塗膜が薄い仕上がりになっています。
9.トップコート(つや有り)を塗布

数回コバコート(顔料系コバ着色剤)の塗布~乾燥~ヤスリがけを繰り返したら、レザーコート(つやあり)を塗布します。
色止めの役割と共に、コバの保護(耐久性向上)を目的とした工程となります。
10.トップコート(マット/つや消し)を塗布し、光沢をおさえる

トップコート(つや有り)の上から、トップコート(マット/つや消し)を塗布します。
つや消しにすることで、落ち着いた雰囲気に仕上がります。
つや消しは使用前によく混ぜましょう。
底部分に、つや消しの成分のようなものが沈殿していることがあります。
11.トップコート(マット/つや消し)乾燥後、ウッドスリッカーで磨き込みながら検品

トップコート(マット/つや消し)の塗り残しがないか、ウッドスリッカーで磨き込みながらチェックします。
塗り残しがあると、トップコート(つや有り)の光沢が光って目立ちます。
最後の仕上げだからこそ、気を抜かずにやり切りましょう。
【まとめ】
コンビ鞣し革はタンニン鞣し革とクロム鞣し革、どちらのコバ処理方法が適しているのか?

上:タンニン鞣し革のコバ処理方法(手順)でコバ処理を行ったコンビ鞣し革/山羊革。
染料系溶剤で染色+磨き処理+色止め剤
下:クロム鞣し革のコバ処理方法(手順)でコバ処理を行ったコンビ鞣し革/山羊革。
顔料系溶剤で着色+トップコート(つや有り)塗布+トップコート(つや消し)塗布
「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」という二つの鞣し手法をかけ合わせた「コンビ鞣し」の革。
両方の性質・特徴を併せ持つと言われる通り、染料系コバ処理溶剤でも顔料系コバ処理溶剤でも仕上げることが出来ました。
個人的な感想は、以下の通り。
【コンビ鞣し革 ⇒ タンニン鞣し革のコバ処理方法(手順)でコバ処理】
純粋なタンニン鞣し革よりも少し磨き込みづらい(光沢が出づらい)。
繊維のまとまる感じが、タンニン鞣し革よりも少し弱い。
しかし、決して仕上がらないということではない。
【コンビ鞣し革 ⇒ クロム鞣し革のコバ処理方法(手順)でコバ処理】
顔料系コバ処理溶剤を塗布する前に軽く磨き込める点は、純粋なクロム鞣し革よりも有利になる。
ただし、磨き込みすぎると顔料系コバ処理溶剤がコバにしっかりと定着せずに、早い段階で剥がれてくる可能性も。
全体としたら、コンビ鞣し革はクロム鞣し革のコバ処理方法(手順)でも違和感なく行える。
もしかしたら、今回使用した革がタンニン鞣し革が牛革で、コンビ鞣し革が山羊革だったことも影響があったかもしれません。
どちらのコバ処理方法が好きか?
どちらのコバ処理方法が得意か?
そして、目の前のコバに適した道具・溶剤・手法はどれなのか?
美しいコバへの道は一つではありません。
今日も頑張っていきましょう。